もう一つの人民元CNHとは何なのか?|通貨コードの由来【番外編】

2025.05.15


中国の通貨コードといえば「CNY」ですが、金融や投資の文脈ではたびたび「CNH」という表記も登場します。

同じ人民元のはずなのに、なぜもう一つのコードがあるのか?
そして「H」は何の略なのか?

今回は、通貨コードシリーズの【番外編】として、
人民元の“もう一つの顔”ともいえる「CNH」について、その由来と制度の背景を解説します。


CNYとCNH:見た目は似て非なるもの

まず、よくある疑問から:

  • CNYとCNH、何が違うの?
  • 両方とも“人民元”なんじゃないの?

結論からいえば:

CNYとCNHは同じ人民元でありながら、「使える場所」「運用ルール」「為替レート」が異なる“二重構造”の通貨です。

簡単にまとめると:

項目CNY(オンショア人民元)CNH(オフショア人民元)
使用地域中国本土香港・シンガポール・ロンドンなど国外
管理体制中国人民銀行(政策誘導あり)市場原理(自由な需給)
規制資本規制あり(資金移動制限)比較的自由に取引可能
レート決定毎朝の中間レート+変動幅で誘導市場で決まる実勢レート

CNHの“H”は何を意味するのか?

「CNH」の“CN”はもちろん「China(中国)」ですが、
3文字目の“H”は、オフショア人民元の取引が香港(Hong Kong)で始まったことに由来します。

つまり、「CNH」は“中国の香港版人民元”という意味合いを持って名付けられた略称です。

なお、CNHはISO 4217の正式な通貨コードではありません。
とはいえ、国際金融市場ではCNYとCNHは明確に使い分けられており、
実務上は事実上の標準コードとして広く流通しています。


なぜ「二つの人民元」が必要だったのか?

ここには、中国特有の経済戦略があります。

「人民元を国際的に使ってほしい」
でも 「国内の資本管理は崩したくない」

この矛盾する要請を両立するため、中国は次のような制度を生み出しました:

  • 国内では従来通り、管理された人民元(CNY)を運用
  • 国外では、自由に取引可能な人民元(CNH)を流通させる

こうすることで、

  • 海外の企業や投資家が人民元建てで貿易・投資できるようになり
  • 一方で中国国内の経済秩序や資本流出リスクは制御可能なままになる

この仕組みは、中国の“コントロールされた国際化”の象徴といえます。


境界を越えるとCNYになる?

仮に中国本土の人が、海外でCNHを保有できたとします。
その通貨を中国本土に持ち込んで使おうとした瞬間、それはCNYとして扱われ、資本規制の対象になります。

つまり、

「通貨の種類は1つでも、“場所とルール”で実質的に別物になる」

という制度設計になっているのです。


それでも、CNYとCNHは“つながっている”

制度的には別でも、市場は両者を分けては考えません。

  • CNHが大きく変動すれば、「CNYもいずれ追随するのでは?」と市場が反応する
  • 中国人民銀行も、CNHの動向を見ながらCNYの誘導を微調整することがある

CNHは人民元の“本音”
CNYは人民元の“建前”

そう言われるほど、両者は鏡のように影響し合っているのです。


世界でも珍しい「コードが2つある通貨」

「オンショア・オフショアでコードまで違う通貨」は、実は世界でもかなり特殊です。

  • 一時期、キューバに「CUP(国民向け)」と「CUC(外国人向け)」の二重通貨があったが、2021年に廃止
  • 他にも二重為替レート制(例:ナイジェリア、ミャンマーなど)はあるが、コードが違うケースは稀

人民元のCNY/CNH体制は、制度としても実務としても、極めてユニークな存在です。


まとめ:CNHという“もう一つの人民元”が語ること

  • CNHは、「海外市場で使う人民元」として誕生した実質的な通貨コード
  • 中国はこの二重構造を使って、通貨の国際化と国内管理の両立を実現している
  • CNYとCNHは制度上別でも、市場では切り離せない“表裏一体”の関係にある
  • 「H」はHong Kong。
     → つまりこのコードそのものが、中国と世界の接点なのです。

表面上はたった3文字の違いでも、そこには経済、制度、戦略、そして外交が凝縮されています。
CNHは、「人民元のもう一つの顔」として、現代中国の通貨戦略を物語っています。


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